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ハード・トゥルース 母の日に願うこと (2024):映画短評

2025年10月24日公開 97分

ハード・トゥルース 母の日に願うこと
(C) Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.7

森 直人

なぜ彼女はいつも怒っているのか

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

現在82歳のマイク・リー監督(1943年生)が『秘密と嘘』以来28年ぶりにマリアンヌ・ジャン=バプティストと再タッグ。監督本領の家族劇だが、「怒り」という主題に一点集中した構成は異例の試みではないか。主人公パンジーの疲弊した姿に演者自身の消耗が重なるようなリアリティがある。

パンジーの苛立ちは自他の環境を破壊していく。個人の心の傷のみならず、EU離脱後の英国社会の緊張感も彼女の怒りに影を落としているようだ。現代社会の負の連鎖。だが周囲の人々の優しさや温もりが微かな救いをもたらす。即興を重ねて緻密なアンサンブルに仕上げる“マイク・リー・メソッド”が市井の日常のドラマ的輪郭を鮮明に際立たせる。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

娘として妻として母としての孤独と悲しみと痛み

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 実に6年ぶりとなるマイク・リー監督の最新作である。主人公はイギリスの閑静な住宅街に住む黒人主婦パンジー。常に怒りと不満を抱えた彼女は家族ばかりか、通りすがりの見知らぬ他人にまで食ってかかる神経質で攻撃的で被害妄想が強い、とにかく不愉快極まりない女性だ。しかし、物語が進むにつれて浮かび上がってくるのは、長年に渡って娘として妻として母親として、周囲から期待される役割を完璧に務めあげようとしながら、しかしその努力と献身を顧みられず評価も感謝もされないできた女性の孤独と痛みと悲しみである。恐らく誰もが、気付くとパンジーに感情移入しているはず。ほろ苦さの中に慈しみと優しさを湛えた映画だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

巨匠が実力派女優のために書き下ろした深い人間の考察

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

ジャン=バプティストがオスカー候補入りを逃したことに疑問の声が聞かれたほど、演技のレベルは最高。それともいうのも、脚本は、「秘密と嘘」以来ジャン=バプティスト、オースティンと再び組むことを願っていたリー監督が、彼女らのために書き下ろしているのだ。実際、対照的な姉妹のキャラクターは非常に奥が深く、複雑で、微妙なニュアンスにあふれる。何に関してもネガティブで喧嘩腰、家族を含む周囲の人たちを不幸にするパンジーは、なぜそんなふうになり、内面に何を抱えているのか。見ていて居心地の良くない場面もあるが、そこも含めてリーは、彼女を冷静かつ優しい目で見つめ、観客に考えさせていく。大人の人間ドラマ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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