F1(R)/エフワン (2025):映画短評
F1(R)/エフワン (2025)
ライター8人の平均評価: 4.5
サウンドデザインが引っ張り、全身が“耳”となる!
“初手”に本作のマニフェストが刻まれている。舞台はデイトナ24時間レース。バックに主人公のキャラ紹介がてら(音と歌詞の圧が強烈な)レッド・ツェッペリンの「Whole Lotta Love」をフルで流すのだが、あの曲の緩急、声と各楽器の重なり具合が文句なく、レース場面と併走するのだ。
後半はハンス・ジマーの、オーケストラとエレクトロを融合させたサウンドデザインが引っ張り、全身が“耳”となる。製作者ブラッカイマーとは初コラボがレース映画『デイズ・オブ・サンダー』(90)で、これで13作目。ところで監督コシンスキーの離合集散のドラマ演出の手つきに、どこかハワード・ホークス味を感じるのは筆者だけか?
ハイクオリティの古き良きハリウッド映画
ストーリーはシンプル。キャラクター設定もおなじみ。結末は最初から読める。主演はますますロバート・レッドフォードを彷彿とさせるようになったブラッド・ピット。アクションあり、ロマンスあり。かつてハリウッドがよく作ったような映画を(そもそも製作はブラッカイマー!)、最高の形でビッグスクリーンに蘇らせた。一方で時代に応じたアップデートも。ブラピのお相手女優も、その昔なら20代だっただろう。とは言え、コンドンもブラピの20歳下なので「ちょっとマシ」な程度。しかし、これは難しいことを言わずに楽しむべき映画。あのすばらしかった「トップガン マーヴェリック」の“地上版”というのは言い過ぎと個人的には思うが。
映画館の大画面と大音響で楽しむべき映画
かつて天才と呼ばれたベテランのカーレーサーが、当時のライバルだった盟友に乞われてF1の世界へ現役復帰し、若き頃の自分を彷彿とさせる無鉄砲で未熟な若手天才レーサーを教え導いていく。いやあ、「地上版トップガン」のキャッチコピーに嘘偽りなし!っていうか、あれ?これってまんま「トップガン マーヴェリック」の焼き直しじゃね!?と言いたくなる基本プロットには思わず苦笑いだが、しかし実際にF1グランプリのサーキットでブラピ本人がかっ飛ばしたというレースシーンの迫力と臨場感は圧倒的。そういう意味で、これは映画館の大画面と大音響で見てこそ意味のある映画と言えよう。
21世紀の進化系アクションに、20世紀的美学が融合
レースの迫力をどこまで観客に体感させられるか? それを追求しているだけでも買い。
コジンスキー監督のアクション演出は、前作『トップガン マーヴェリック』を明らかに意識している。音速への挑戦とカークラッシュをとらえた巧みなカメラワークが素晴らしい。死と隣り合わせの世界の表現としては、確実に体感の凄みが宿っている。
『トップガン マーヴェリック』のトムの二枚目半的なキャラとは逆に、ブラピをどこまで渋く魅力的に見せるかも本作が追及しているポイント。そういう意味では“かっこつけ”アクションエンタメが主流だった20世紀的で、ノスタルジーの魅力を感じる人も少なくないと思う。
ひと足お先に、ブラピで『デイズ・オブ・サンダー』
“F1版『トップガン』”の触れ込みのうえ、ブラッド・ピット演じる流浪のレーサーが冒頭で爆走するのがデイトナ(こっちは24時間レースの方)&音楽はハンス・ジマーだけに、ほぼ“ブラピの『デイズ・オブ・サンダー』”! お約束のように展開される次世代ドライバーやオーナーとの対立に加え、ケリー・コンドンとの大人の恋も描かれるが、特筆すべきはF1をチームスポーツとして描いていること。キャラが立ったメンバーの中、ムチャしながらも、引くところは引くブラピのイケオジな面が強調され、新規の推しが増しそうな勢い。やや話が被る『グランツーリスモ』での反省点も改善されており、長尺155分を激走!
スターのオーラ、レース体感映像、美しい余韻…これこそ映画!
監督といい、その道のベテランが才能ある後進の背中を押す設定といい、『トップガン マーヴェリック』が甦るが、そこにブラピの「孤高のヒーロー性」「年齢を重ねた哀愁」さらに「異常に似合うレーシングスーツ姿」が加味され、無敵状態の映画に!
サーキットの映画は過去にも多かったが、本作のドライバー目線への徹し方は最上レベル。スピードだけでなく、接触のスリル、チームの駆け引きまで、われわれ観客も臨場体験することに。もちろん天才を支えるF1チームの舞台裏には胸アツだし、ソックスのネタとか細部も心にくい演出が炸裂。そして幕切れは反則的なカッコよさ。ここまで「観客を選ばず」興奮の極地へ誘う映画は年にわずかだろう。
ブラッド・ピットがカッコいい
ブラッド・ピットがカッコいい。過去に傷を持ち、定住を嫌う一匹狼だが、腕は一流、仕事はプロに徹する。そんな絵に描いたような主人公が、年齢を重ねてきた現在のピットに似合う。監督&脚本は『トップガン マーヴェリック』の2人。ベテランと新人が出会い、腕を競い合うが、勝敗を競うのとは違う関係を築くという展開も魅力的。
また、レースをレーサーのものではなく、スタッフを含めた"チームスポーツ"として描く視点も新鮮。スタッフ参加の作戦会議、レース中のレーサーとスタッフのやり取りも興味深い。レースを体感させる映像は、大画面仕様。目の前で軋むタイヤは、摩擦熱による煙を発し、その熱気と臭いが直撃する。
疾走感がたまらない
今夏の洋画一番手となる大作。”地上版トップガン”の謳い文句通り、圧倒的なスピード感、疾走感を感じさせる娯楽大作となっていました。もちろんその真ん中にいるのはブラッド・ピット。ブラピも御年61歳ということですが、まだまだ若いですね。ジョセフ・コシンスキー監督も『トップガンマーヴェリック』を経て娯楽大作の撮り方にもすっかり馴染んだ感があります。実際に多くの知見を転用した演出が随所に見ることができます。ハビエル・バルデム、ケリー・コンドン、ダムソン・イドリスと言った共演陣も好演。2時間半を超えますが、体感はもっと短いです。ハンス・ジマーの音楽も印象的。