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658km、陽子の旅 (2023):映画短評

658km、陽子の旅 (2023)

2023年7月28日公開 113分

658km、陽子の旅
(C) 2023「658km、陽子の旅」製作委員会

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

轟 夕起夫

熊切和嘉監督と“再会”を果たした日本映画初主演・菊地凛子の旅

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

タイトルロールの、半ば人生から降りかかった“陽子”に血肉を与え、658kmの旅を生きてみせた菊地凛子。その道中では、現在の日本、そして東北地方の偽らざる具象、むきだしの風景と、陽子の心象とがクロスしてゆく。

ところで随分と前、菊地凛子に取材したときのことだ。彼女はマイケル・チミノのロードムービー『心の指紋』(96)が大好きだと言っていた。『空の穴』(01)以来、熊切和嘉監督と“再会”を果たしたこの(ヒッチハイク)ロードムービーは、題材やスタイルが違っていても、自己や過去と対峙する主人公と、醸造されていくホットな空気感がどこか似ていた。きっと、彼女にとっての“心の指紋”が誕生したのだと思う。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

人生を諦めた氷河期世代の再生を描く静かなロードムービー

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 就職活動に失敗した氷河期世代、夢を諦めて内職バイトで稼ぎながら、引きこもり同然の生活を送る40代独身女性が、絶縁した父親の葬儀のため故郷の青森へ向かうが、ひょんなことからヒッチハイクをする羽目になる。極めてシンプルなストーリーのロードムービー。何かすごくドラマチックな事件があるわけでもない。他者から心を閉ざして流されるまま漠然と生きてきたヒロインが、行く先々で親切な人から助けられたり、反対に悪い奴に騙されて傷つけられたりしながら、徐々に「自分の意思」や「自分の声」を取り戻していく姿を丹念に描く。恐らく、人生で大きな挫折を経験したことがある人には刺さりまくるはず。菊地凛子のリアルな芝居も圧巻。

この短評にはネタバレを含んでいます
ミルクマン斉藤

すっぴん菊地凛子と冬の旅は良く似合う。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

都会で引きこもっていた主人公陽子が、父の死によって青森の故郷へ辿りつくまでのロードムービー。しかし、その旅が彼女の生き方を見つめ直す過程となり得たかについては疑問を抱かざるを得ない。彼女を迎えに来た兄とひょんなことで離ればなれになり独り旅となるのだが、そのひょんなことというのが余りに唐突 (いくらでもより良い選択はあるだろうに)。そういった些細な納得できないことが頻発し、旅の手段も行き当たりばったり過ぎて作品に緊張感をなくしている。ジム・オルークの音楽は素晴らしいけれど、やや雰囲気勝負への傾きを助長しているかも。ただ、竹原ピストルや見上愛、浜野謙太や風吹ジュンらがいい味だが。

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森 直人

「北」に向けて心が解けていく内省のロードムービー

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

菊地凛子扮する陽子が、『空の穴』で演じた妙子の20年後のように見える。もちろん『ノン子36歳』の世界線とも繋がる本作は、熊切和嘉フィルモグラフィのひとつの結晶点だろう。就職氷河期世代の彼女が、東京から故郷の青森県弘前までヒッチハイクで日本列島を北上。それは陽子にとって「私の中の父」と向き合う遅い通過儀礼であり、東日本大震災から10年後の東北の風景を巡る旅にもなる。

『海炭市叙景』の函館や『私の男』の紋別など、熊切作品は日本ローカルの場所選びが素晴らしい。グレーの空や冷たい空気にジム・オルークのギター/音響が染み込む。細かく設計されたサウンドスケープが本作の達成と詩情を至上の域に高めている。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

『ケイコ 目を澄ませて』に通じる秘めた熱量

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

思わず豚丼が食べたくなる『空の穴』から22年。北海道から東京に帰る旅行者を捉えた熊切和嘉監督が、東京から弘前まで里帰りするヒッチハイカーを捉える相互性。その被写体は新人女優・菊地百合子から世界に羽ばたいた菊地凛子だが、全身全霊で引きこもりのコミュ障を演じる彼女のための映画といってもいいだろう。彼女が父の死により、過去と対峙することから始まるリアルでヘヴィな熊切節が炸裂するなか、意外なファンタジー要素もアリ。『ケイコ 目を澄ませて』にも通じる秘めた熱量を感じさせるなか、地元の人々との触れ合いなど、ロードムービーとしての醍醐味もあり、見上愛や仁村紗和などの贅沢な使い方も見どころだ。

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斉藤 博昭

予定不調和なムードに浸って、主人公と一緒にドキドキし続ける

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

タイトルにある658kmものヒッチハイクの旅。映画の尺を照らし合わせると「えっ、今ここ?」と進み具合がけっこう「いびつ」な印象。でもだからこそ、主人公のドラマが予想不能の方向へ行きそうな危うさが漂い続け、じつは計算どおりなのか…と感心。音楽が流れる瞬間も用意周到で、こちらの琴線にふれる。

道中で出会う人たち。キャスティングの妙もあって、それぞれの生活に根ざしているムードも鮮やかに伝わってきた。やや設定に寄りかかりすぎて、時折ツッコミを入れたくなる描写もありつつ、終わってみれば映画らしい重厚感なのは、あるシーンでの菊地凛子のアップの演技が、有無を言わさず魂を震わせるレベルだったからかも。

この短評にはネタバレを含んでいます
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