デッドマンズ・ワイヤー (2026):映画短評
ライター4人の平均評価: 4
70年代の実話が現代を映し出す
かつて人質がすぐ殺されるわけではなく、犯人が射殺されもしない世界が存在したことがあった。ガス・ヴァン・サント監督は、1977年の実話に基づく物語を描いて、現在がどのような時代なのかに思いを至らせる。
物語を描く映像は、今とはまったく異なり、1970年代の質感と色調。当時のビデオカメラで撮影されたという、ニュース映像という設定のシーンでは、画角も変わる。犯人は悪人でもサイコパスでもなく、ただ自分を騙した企業に対して、怒りを表明せずにいられない男。人質にされた男はその企業の二代目経営者だが、悪意はなくやがて幸福でもないことが分かる。そういう物語の背後で'70年代のヒット曲の数々が流れ続ける。
限られた状況で自分らしさを打ち出した監督に拍手
ガス・ヴァン・サントがいかにすごいプロであるかを証明する1作。監督(ヴェルナー・ヘルツォーク)と主演俳優(ニコラス・ケイジ)が降板した後に雇われ、1ヶ月後に撮影開始というスケジュール(そして低予算)にもかかわらず、自分らしい、緊張感に満ちた考えさせる極上スリラーを作り上げてみせたのだ。フィルムで撮影された、画像が粗く、一瞬停止したりするビジュアルは昔のテレビのようで、観る者をその時代に連れて行く。出演時間は短いが存在感たっぷりのアル・パチーノが、「狼たちの午後」をさらに思い出させる。倫理の欠如した企業、社長のボンボン息子、その餌食にされる弱者という要素は今なおタイムリーで心に迫る。
ビル・スカルスガルドの目力が癖になる
『IT』、『ノスフェラトゥ 』と変な役を全力でやってくれる頼れる存在ビル・スカルスガルドの最新作はなんとガス・ヴァン・サントの実話ベースの一本。追い詰められたがゆえに強烈な思いを抱えた男を一度、睨まれたら忘れられない目力でビル・スカルスガルドが熱演しています。これだけでも一見の価値があると言っていいでしょう。監督作品としてはちょっと久々となるガス・ヴァン・サント、過去にも実話ベースの作品を手掛けてきましたが、今回はちょっと肌触りが違い、当時の時代性を感じさせる妙な生々しさがあります。派手さはありませんが癖になり、後を引きます。
アメリカン・ニューシネマを現代の位相に再配置する
ガス・ヴァン・サントが一貫して抱える周縁者へのまなざしが、70年代ニューシネマへの濃密なオマージュとして結晶する。特に『狼たちの午後』。立てこもりの実録性、メディアの渦、追い詰められた男の孤独――その全てが高次の視座から映画内部に呼び戻される(アル・パチーノのゲスト召喚も!)。
進行役となるラジオDJの選曲が物語に時代の心拍を流し込む。ソウル/ファンクを基本線としながら、『センチメンタル・バリュー』でも使われたラビ・シフレ「Cannock Chase」等も。格差と不安に揺れるアメリカの影を照らし出し、ヴァン・サントは“反逆者”の系譜を更新して、過去と現在を繋ぐ新しい物語のリズムを刻んでいる。
























