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罪人たち (2025):映画短評

2025年6月20日公開 137分

罪人たち
(C) 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema(R) is a registered trademark of Dolby Laboratories

ライター8人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

森 直人

黒人文化史をもとにした風刺的デザインが秀逸

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

ロバート・ジョンソンが悪魔と契約したミシシッピ州クラークスデイルの十字路――余りに有名なブルースのクロスロード伝説をベースに、アイルランド系とのねじれた対立を組み込んで音楽映画×ホラー活劇に組み上げた設計思想が素晴らしい。1932年、米南部の移民状況を軸に歴史を射抜く、ライアン・クーグラー監督の中でも作家的濃度の高い意欲作となった。

全体としてはジョーダン・ピールの映画にステロイドをぶち込んでIMAX仕様の娯楽映画に仕立てた趣か。“意味”の構築の強度が凄いだけに、個人的にはジャンルミックス的な転調が起こってからは単調に感じてしまったが、この攻めた作風で全米No.1ヒットとは驚嘆の成功例だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

恐ろしいまでに泥臭いディープサウスの寓話

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 『フロム・ダスク・ティル・ドーン』と『クロスロード』が融合して、有色人種の米国史に結び付いたというか、そんな趣の力作。

 ホラー要素はあるものの、むしろ寓話性の方が強い。1930年代という時代の空気と悪魔的なものの存在、聖と俗の対比の絶妙なブレンド。クーグラー監督の出世作『フルートベール駅で』の呪術バージョンに思えなくもない。

 ルーツ的な音楽の起用も寓話の味わいを深めるに十分。徹底的に泥臭いブルースギターの響きは、南部の湿地帯にズブズブと引き込むかのよう。この世界観の中では異様でしかないアイリッシュフォークのサウンドも忘れ難い。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

『フロム・ダスク・ティル・ドーン』の偉大さを再確認

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

マイケル・B・ジョーダンが『ブレイド』化したかと思えば、いきなり『遊星からの物体X』な心理戦が始まる。じつはジャンル映画好きであるライアン・クーグラー監督が、ジョーダン・ピール監督にタイマンを張るような意欲作である。ただ、前半パートのキャラ紹介にかなりの尺を費やしており、中盤の見せ場である“時空を超えたジャムセッション”までが冗長気味になっているのは事実。そのため、ほぼ同じ構成なのに、本作より30分も短い『フロム・ダスク・ティル・ドーン』の偉大さを再確認することに……。そんななか、『トゥルー・グリット』から15年を経たヘイリー・スタインフェルドの使い方に、★おまけ。

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なかざわひでゆき

音楽をキーワードに米国社会の闇を焙り出す異色ホラー

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 白人至上主義団体KKKが依然として暗躍し、悪名高き「ジム・クロウ法」も健在だった’30年代のアメリカ南部。大都会で悪名を轟かせた黒人ギャング兄弟が故郷へ戻り、天才ギタリストの従弟を誘って黒人向けナイトクラブを開業するも、魂を揺るがすリズム&ブルースの熱狂が恐るべき悪魔を引き寄せてしまう。これ、本当にホラー映画?と思わせておいて、阿鼻叫喚の血みどろヴァンパイア・パニックへとなだれ込んでいく語り口は『フロム・ダスク・ティル・ドーン』みたいだが、しかしホラー映画のフォーマットを用いて今なお米国社会を蝕む暴力と憎悪の連鎖を描くという作劇法は、むしろ同じロドリゲス監督の『パラサイト』を彷彿とさせる。

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村松 健太郎

イマジネーションあふれる傑作

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

監督・ライアン・クーグラー&主演・マイケル・B・ジョーダンというとっても信頼できる組み合わせの新作。どんな映画でも楽しくなりそうですが、なんととんでもないサバイバルホラー映画になっていました。ただ、作品の前半分で1930年代のアメリカにおける黒人文化、歴史、音楽(=ブルース)と言ったエッセンスが丁寧に描かれていることもあって、映画全体に一種異様な箔を身に纏わせることに成功し、単純なホラー映画という枠組みには収まらない逸品となりました。噛めば噛むほど味がするタイプです。IMAX70㎜で撮影されているということもあるので可能な限りラージフォーマットのスクリーンでご覧いただきたいです。

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平沢 薫

音楽はこうして存在してきた

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

「音楽とは何か」を描く映画としても、深い感動を与えてくれる。音楽が、耳に聞こえる音としてだけでなく、目に見えるものとして画面に映し出される。それも黒人音楽だけではない。ライアン・クーグラー監督はこれまでアフリカ系アメリカ人の物語を描いてきたが、本作ではアメリカ先住民、アジア系移民、アイルランド系移民、それぞれの音楽も出現させ、ブルースだけでなく音楽というものの物語を描いて、希望の余韻を残す。

 禁酒法時代のアメリカという時代設定、人間ではない伝説的な存在という要素に加え、アスペクト比2.76 : 1の横長画面、計算しつくされた色彩設計が、この物語が<寓話>であることを強調し続ける。

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猿渡 由紀

ジャンルを超えた野心作。クーグラーの才能を再確認

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

ライアン・クーグラーは独自のビジョンと声を持つ、今最も面白い監督だと再確認。ヴァンパイアものは山ほどあるが、1932年の南部を舞台に黒人のコミュニティと文化、人種差別を描き、すばらしい音楽を散りばめ、バイオレンス、セクシーさ、信仰も盛り込んだ、こんな大胆かつ野心的な映画はこれまでになかった。アクション満載のクライマックスで終わりかと思うと、予想しなかったシーンが待っている。クーグラーの最高のパートナーで、ひとり二役をこなすマイケル・B・ジョーダンはもちろん、サミー役の新人マイルズ・カントンもすばらしい。メジャースタジオからもまだこんなオリジナルな映画が生まれるのだと、希望を感じる。

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斉藤 博昭

新たな地平を求めて成功、この映画を観ることは今を生きること

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

映画の語り方、ジャンルは、もはやすべて出尽くした感のある現在において、それでも「新しい映画」を求め、その実験が鮮やかに成功する。本作はそんな一本。
冒頭からしばらく、どんな世界に放り込まれるか謎めき、やや困惑する。それでも突発的に心臓を刺激する描写が挿入され、静かな緊迫感は持続。そしてドラマがやや落ち着いた頃、異様なシチュエーションから映画的興奮へ押し流されていく…。4カ所での攻防を激しい音楽とともに盛り上げるシーンなど、監督のノリノリ演出が冴え、アクションの見せ方は安定感とチャレンジ精神の究極ブレンド。
メタファーで入れ込まれる社会性テーマは、感じる人に強靭に、無関心な人に不要なのも合理的。

この短評にはネタバレを含んでいます
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