サンキュー、チャック (2024):映画短評
ライター8人の平均評価: 4.5
受け止め方は違っても、誰もが考えさせられるはず
人間はみんな死ぬのだけれども、それがいつ、どのようにやってくるのかはわからない。いずれにせよ、ひとりの人生は、広大な宇宙とその歴史において、微々たるものにすぎない。そんな深い哲学を、スティーブン・キングらしい、ミステリアスで、想像力豊かで、奇妙な物語を通じて語っていく。時間が逆戻りする構成は、予想を裏切りつつ、その都度新たな事柄に触れる。
これは人生を祝福するものか、悲観するものか。観る人によって受け止め方は違うにしろ、誰もが考えさせられるはず。まるで読書をしているようにナレーションがいろいろ説明するのも、この映画においては効果的。ナレーターがニック・オファーマンというのも絶妙。
これ、寅さんファンにも観てほしいなあ〜
例えばシリーズ39作目『男はつらいよ 寅次郎物語』(87)で寅さんが、甥の満男から「人間は何のために生きるのか」と問われ、答える名場面。その答えを、自由詩の父と呼ばれるウォルト・ホイットマンの視座で包み込んだ、世界や人生に対する“やるせない気持ち”を立て直してくれる映画。
選び抜かれたキャスティングがいい。監督のマイク・フラナガンのオールタイムべストの一本、『オール・ザット・ジャズ』(79)はダンスシーンへの参照だけでなく、作品本体の精神的支柱にもなっていると思う。この逆流する3幕構成の中には複数回登場するディテールが散りばめられており、終わった途端ただちにもう一度観返したくなること必至だ。
S・キングらしいギミックの効いた優しくて暖かい感動作!
地球規模の自然災害や疫病などで、世界が静かに終わりへと向かいつつある中、突如として「ありがとう、チャック!」という広告が、世の中のそこかしこを埋め尽くす。果たしてチャックとは何者なのか、この奇妙な広告に何の意図があるのか?という謎で観客の強い関心を惹きつつ、そのチャックなる平凡な男性の人生が綴られていく。終わりから始まりへと向かう物語構成。スティーブン・キング原作ならではのギミックを効かせつつ、人間という存在の素晴らしさ、人生の美しさ、そして生命の尊さを感動的に描いた作品。トム・ヒドルストンのチャーミングなこと!ミア・サラにヘザー・ランゲンカンプという’80年代美少女の共演も嬉しい。
人生を異なる角度から俯瞰してみよう
S・キング原作の非ホラー映画は傑作が多いが、本作も引けをとらない。『ショーシャンク~』などとはまったく違う視点で人生の意味を物語る。
3部構成で、第3章から映画は始まり、2章、1章とカウントダウン。観進めるほど最初の章の見方が変わるのがドラマ面での面白さ。ネタバレを避けたいので抽象的な物言いになるが、人生観にはこういうものもあるという発見につながっていく。
主人公チャックにふんするT・ヒドルストンはダンスを含めて好演。そのダンスが象徴するものを考えると深みは増してくる。カール・セーガンの思想を含め、引用がパズルのようにピッタリはまる傑作。
トム・ヒドルストンのダンスが人生を変えてくれる!
世界の終わりを予感させる第1幕は、いかにもスティーヴン・キングらしいが、どこか牧歌的な安らぎが漂い、明らかに未体験映画の歓びが溢れる。第2幕のトム・ヒドルストンのダンスシーンは、映画史に残ると言っていい多幸感と高揚感。F・アステアからM・ジャクソンまでダンスの歴史にもオマージュを捧げ、感慨もひとしおだ。そして子供時代に遡る第3幕で楽しさと希望は加速しつつ、ちょっぴり超常的なエピソードが挿入されるのもキング作品らしい。各パートがどのように繋がるかには、監督の才能(編集の妙)も光り、すべてがひとつになった時、つまり映画を観終えた時、われわれ一人一人が人生の意味をしみじみと実感する。完璧な映画体験!
生きるとはどのようなことなのか
突然、奇妙な世界の終わりがやってくるところから始まって、ゆっくりと胸を打つ物語に着地していく。人間が生きるということは、そして人間が死ぬということは、どのようなことなのか。それを静かに問いかけてくる。本作のマイク・フラナガン監督が企画したヴァンパイア・ドラマ「真夜中のミサ」で登場人物が死について語るシーンにも、同じ静けさがあった。本作には監督自身の妻と幼い息子も出演しており、監督の個人的な物語でもあるのだろうか。監督が『エクソシスト』を新解釈で描く次回作も気になる。
ちらっとしか登場しない人物を、デヴィッド・ダストマルチャンや、マシュー・リラードが演じるという配役も味わい深い。
絶望なのになぜか軽やかでチャーミングな一本
これまでもスティーブン・キング原作を映画化してきたマイク・フラナガナン監督による非常に風変わりな一品。これはネタバレでもなんでないので言ってしまいますが、劇中で世界というか地球は滅亡に瀕しています。そこから、チャックという男の物語が時間を巻き戻す形で描かれていきます。このチャックを演じたのがトム・ヒドルストン。こういうタイプのキャラクターもできるんだと感心してしまいました。守備範囲が拡がったように思います。脇では何と言ってもマーク・ハミル。素敵なおじいさまを好演してます。絶望に瀕しているはずなのになぜか映画は終始軽やかという不思議な感触がいつまでも残ります。
不意打ちのごとき名作!
やたらと数多いS・キング原作物だが、これは久々の極上級。“世界の終わり”から始まる逆時系列の全三章は、ナレーションの滑らかな運びを軸とした抜群の語り口により、人生を繋ぎ直す祝福の寓話として輝く。ホイットマンの詩やカール・セーガンの宇宙カレンダーといった細部の豊かさ。そしてT・ゴードンのドラムと、M・ムーア(『ラ・ラ・ランド』)の振付による路上ダンスが、トム・ヒドルストン演じるチャックの“歓喜の瞬間”として眩しく立ち上がる。
フラナガン監督の丁寧な仕事は出色で、ミュージカル映画『カバーガール』の引用も鮮やか。宇宙と人生の連関に想いを馳せる不思議な感動と抒情に包まれる。余りに良い出来で驚いた!




























