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アメリカン・スナイパー (2014) 映画短評

2015年2月21日公開 132分

アメリカン・スナイパー
(C) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ライター9人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.6

中山 治美

誰も彼の気持ちは共有出来ない

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

 同様に、兵士の後遺症を描いた映画はこれまでもあった。S・ビア監督『ある愛の風景』(04)は、米映画『マイ・ブラザー』(09)としてリメイクされた。藤本幸久監督の米海兵隊のドキュメンタリー『アメリカばんざい crazy as usual』(08)帰還後、ホームレスになった元兵士の現状に迫った。彼らの心の叫びにようやく世間が関心を示したのはイーストウッド印の成せる技か。
 そして本作は、兵士が戦場で味わった緊張、恐怖、悔恨といった苦い感情は、家族ですら共有出来ないことをまざまざと見せつける。これは英雄伝ではない。160人分の魂と、孤独を抱えて生きることになってしまった男の悲劇なのである。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

C・イーストウッド監督のステーリーテリング術にうなる

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

クリント・イーストウッド監督の巧みなストーリーテリング術が光る作品だ。“レジェンド”と異名を取った海兵隊の狙撃手クリス・カイルの人生はワイルドかつ濃密だが、監督はスリリングな冒頭に続くフラッシュバック場面でカイルの背景や人間性を確立することで彼に対する観客の共感性を高める。その後はカイル視線で物語を見ることになり、危険な戦場における「偉大なるアメリカを守る」意識も、銃後の妻子との平穏な生活に馴染めない苦悩も我が身に降り掛かった出来事のように感じられるという仕組みだ。まさに匠の技! しかも原作の愛国精神も生かしつつ、きちんと反戦映画に仕上げているのが素晴らしい。 

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轟 夕起夫

「内なる戦争」へと転調し、そして生まれるドッペルゲンガー

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 映画監督もスナイパーも、shootingに失敗は許されない。というのは建前で、実際には的を外してしまうこともあるだろう。終盤、毎度のごとく、イーストウッド監督は強調/転調したい場面でスローモーションを用いているのだが、これには最初、違和感があった。が! そのスローモーションで描かれた時間が、“軍人クリス・カイル”の最後の絶頂で、また「内なる戦争」へと転調してゆく導入剤にもなっており、会得した。国外では自分の影のような狙撃手に襲われ、帰国しても(無数にいる)己の分身と向き合わざるを得ない兵士のもがき。羊を狼から守る番犬になろうとしてドッペルゲンガーに蝕まれていく男の、人間の、普遍的な物語。

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ミルクマン斉藤

アンチヒーロー映画ではない。でもヒーロー映画じゃ絶対にない!

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

レッドネックと呼ばれれば「テキサス人だ」と意地を張る無教養な自称カウボーイが、たまたま射撃の才があったばかりに味方の命を救い英雄視されるものの、自分は一発撃つたびに心拍を異常昂進させ、母国に戻っても戦場の爆破音や拷問のドリル音に囚われ続けて次第に精神を崩していく、そんなPTSDの恐怖を観客に強制体験させる映画。『父親たちの星条旗』に露骨だった反イラク戦争の意思(殉職した隊員の厭戦的手紙!)、遡っては殺人者の背に星条旗を翻らせた『許されざる者』に繋がる「暴力こそが米国の歴史だ」的諦念がここに集約。この重苦しいムードとは逆に、宿敵の元五輪選手スナイパーとの決闘空間は別次元となるB級活劇魂に痺れる!

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なかざわひでゆき

英雄と呼ばれた男の光と影を通じて戦争の真実を探る

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 9.11の衝撃に怒りを燃やし、自ら特殊部隊に志願したスナイパーが、やがてイラク戦争の英雄として祭り上げられていく。
 アメリカは愛国者の国であり、日常生活と愛国心は切っても切り離せない、とは筆者がかつて取材したハリウッド俳優の言葉だが、その意味で主人公クリスは平均的な米国市民だ。しかし、そんな彼の直面する深い苦悩と皮肉な運命が、愛国者の正義をも打ち砕く戦争の理不尽を浮き彫りにする。
 アクション映画としての娯楽性を兼ね備えつつ、あくまでも客観性を重視したイーストウッドの演出は、それゆえに幅広い解釈を生むことだろう。観客の思想や信条に問いかける、そういう面でも見応えのある作品だ。

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清水 節

戦場にヒーローなどいない。「守る」大義の末路に戦慄が走った

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 一人の男を通し、戦争の昂揚と不条理と無惨が冷静に描き出される。仲間を守ることに無上の価値を置き、イラク戦争を志した実在の兵士。報復に燃え精確無比に大勢を射殺した狙撃手は“伝説”と称えられたが、イーストウッドの視点は極めて客観的だ。敵の狙撃手との一騎打ちという娯楽アクション要素を用意しながらも、演出はまんまと欺く。『ダーティハリー』の正義の在りように落とし前を付けたのが『グラン・トリノ』なら、本作は第2次大戦の英雄神話を暴いた『父親たちの星条旗』の延長線上に位置する。戦場にヒーローなどいない。「愛する者を守るため」という大義名分の末路に戦慄が走る。エンドロールで聴く“音”は、自分自身の叫びだ。

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相馬 学

ドラマもテーマも歯応え満点

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 イーストウッドが映画人に尊敬されている理由がよくわかる力作。まず、反戦の意図を明確に打ち出したテーマ性。戦争ジャンキーと化す主人公像は『ハート・ロッカー』と被るものの、本作では妻との葛藤にドラマの重力が宿り、ヘビーな歯応えを残す。敵側のスナイパーにも家族がいることを伝えている点も巧い。

 何より、エンタメとしてよくできている。スナイパー同士の攻防はきわめてスリリングで、見ている側を緊張の渦に引き込むに十分。このような娯楽味と、アート性を両立させる点で、イーストウッドの凄みが存分に伝わってくる。

 ブラッドリー・クーパーの肉体改造や熱演も見応えアリ。イーストウッドの剛腕に応えたと言えよう。

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平沢 薫

エンディングの音楽は、観客が選択しなくてはならない

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

交戦中に砂嵐がやってきて、視界は茶色い土埃だけになり、敵も味方も見えなくなる。そこに人間がいるのかすらも分からなくなるが、銃弾が飛んでくるので、銃を撃ちまくるしかない。今、戦争というものを、イーストウッド監督はこのような光景に描く。

主人公は、幼少時に父から教えられた価値観と射撃の技術で、優れた兵士になる。彼にとっての戦争は仲間を守ることであり、悩むのは人を殺したことではなく仲間を救えなかったこと。戦争の原因に意識は向かわない。それをこの映画は批判も賞賛もしない。ただ、エンドクレジットに音楽をつけないことで、この物語がどのような音楽と共に語られるべきなのかを、観客に考えさせるのだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

『ハートロッカー』と見比べるのも一興

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

自国からは「伝説」、敵国からは「悪魔」と呼ばれる狙撃主であり、不器用すぎるテキサス男ゆえ、『ハートロッカー』同様「戦争は麻薬」状態になった男の半生。あくまでも人間ドラマ中心なので、かなりエッジの効いたものを期待すると、モノ足りなさを感じるかもしれない。とはいえ、そこはイーストウッド監督作。プライドを懸けた敵国の狙撃主とのバトルなど、アクション映画ファンも惹きつけるエンタメ要素も盛り込んでいるところが、全米メガヒットの要因だろう。もし、主人公の死因を知らなければ、そのまま劇場に向かった方がいい。その方が、あまりにドラマティックな彼の終幕が胸を貫き、エンドクレジットの無音がより心に響くはず。

この短評にはネタバレを含んでいます
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