90メートル (2026):映画短評
ライター5人の平均評価: 4.4
初めてのオリジナル企画は、頭ひとつ抜けている感あり
中川駿監督の作品との出会いは、さる自主映画のコンテスト。まだブレイク前の今田美桜主演、『カランコエの花』(16)の完成度に驚かされた。それから欠かさずその新作を観てきたのだが、初めてのオリジナル企画は頭ひとつ抜けている感あり(揺れすぎるカメラワークは気になるが)。
ALSを患う母(菅野美穂)と、自宅介護しながら未来を見つめる高校生の息子(山時聡真)。静謐なタッチの中、トリッキーな演出はこれまで以上に有効で、自販機のギミックが題名の「90メートル」を意外な角度から体得させる。そして暗転の使い方は、中途障害を負った者の醒めない夢の希求――「夢のまた夢を見る」エピソードを、非当事者にも響く描写に。
エンディング曲まで繊細に、丁寧に
病や死が”感動モノ”や”泣ける映画”というジャンルとして大量生産されている中、それとは一線を画する。病を大袈裟に描いたり、劇的な音楽で煽ったり、セリフで分かりやすく説明するような事はしない。そうせずとも映像は、ヤングケアラーの現実を克明に映し出し、病を契機に関係が変わり、本音をぶつけ合うことが出来なくなった母子の機微を雄弁に語る。当事者たちに寄り添い、エンディング曲まで繊細に、丁寧に紡がれたこの物語は、誰かの人生を作品にすることの真髄を改めて我々に突きつける。中川監督商業映画初のオリジナル作品で、過去作に続き宇多川寧Pが支えた。一人の映画作家の成長を見守り続けた制作体制が生んだ傑作である。
介護の先に未来が見える、青春映画の好編
原作があると思いきや、オリジナル脚本であることに驚いた。それほど、中川監督の脚本はよく練られている。
母の介護のために、やりたいことを諦めた高校生の、母、友人たち、ケアマネージャー、ヘルパーたちとの、それぞれの関係を丁寧に見つめる妙。彼らとの距離を少しずつ縮め、自分の人生を見つける主人公の成長が清々しく、まっすぐに胸に届く。
監督は『コーダ あいのうた』を参考にして、それとは真逆の構図を試みたというが、それも納得。主演の山時聡真はもちろん、ALSを患う母にふんした菅野美穂の演技にも確かなリアリティが宿り、目を奪われた。
中川駿監督らしい繊細な青春映画
さすがは、これまで良質な青春映画を手掛けてきた中川駿監督。これだけヘヴィな題材を扱いながら、ありがちな“感動の押し売り”にならないのは、あくまでもヤングケアラーになってしまった繊細な主人公の青春映画として描いているからに、ほかならない。トゥーマッチな劇伴も流れないから、エンドロールに流れる大森元貴の歌声が染みてくる。主人公の吹替えを担当した『君たちはどう生きるか』以来、着実にキャリアを築いてきた山時聡真にとって、名刺的な一作になったのは間違いなく、彼を温かく見守る南琴奈の配置も巧い。かなり挑戦的な作品だが、中川監督の誠実な人柄が伺えることで、★おまけ。
絆は距離ではなく深さが大切
メジャーデビュー後、原作ものを手堅くまとめ上げてきた中川駿監督の待望のオリジナル脚本作品。難病もの。ヤングケアラーなど重くなる要素を重ねながらも、どこか重くさせ過ぎないのは監督の手腕とメインの二人の巧さでしょう。山時聡真と菅野美穂をキャスティングできたのは本当に良かったです。この二人のバランス感覚の良さを改めて堪能しました。決して大上段に構えた大作ではありませんが、心に訴えかける部分が多く、一人でも多くの人に見られると嬉しくなりますね。ラストにタイトルの意味が分かる展開も気が効いていて、最後に希望を感じさせてくれます。


























