アメリと雨の物語 (2025):映画短評
ライター6人の平均評価: 4.5
雨が輝かせる日本の景色と、遠い記憶
感受性豊かな原作者の幼少期の記憶を、創造力溢れるアーティストが受け取るとかくも美しく、瑞々しい作品が生まれるのかと驚愕するに違いない。ましてその記憶は彼らにとって異国である’60年代の日本。雨が輝かせる四季の情景、日本家屋の陰影に潜む妖怪たちなど彼らが描くその世界は、私たちの潜在意識をも呼び覚ますものであり、NHK朝ドラ「ばけばけ」も彷彿。そもそも制作チームが原作に惹きつけられたのは、アニメを通して知った日本の素養があったからこそ。アメリのキャラクター造形や水のシーンなどに『崖の上のポニョ』的な影響が多分に見受けられ、考察するのもまた一興。改めて日本アニメ界の重鎮たちの功績を深く感じ入るのだ。
1960年代の日本が瑞々しい「目」で再構築される
ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」(昭和38年のヒット曲)が流れる神戸。出生時~3歳になるベルギー人のアメリ(奈良美智タッチあり。大友克洋『童夢』的な能力も!?)という幼少期の子供の目線から、世界との触れ合いを映した素晴らしいアニメーションだ。フランス出身のコンビによる共に監督としてのデビュー作。輪郭線を省き光と事物が溶け合うように色を置いたグラフィックは、デジタル作画ながら有機的な温かみに満ちている。
お話はアメリと家政婦のニシオさんの関係が軸となる。戦争の深い傷や8月のお盆などを通し、高畑・宮崎・片渕アニメのDNAが独自変換された。濡れた窓ガラスに書く「雨」の文字の美しさも忘れられない。
マジカルさの中にも現実がある、詩的で美しい作品
好奇心、反抗心、発見、大好きな大人といる安心感。自分が小さかった頃に連れ戻してくれる。アメリの場合はホワイトチョコレートだけれども、とても美味しい甘いものを食べて天にも昇る気持ちになった気持ちは、きっと覚えているはず。それに、すぐそこにある自然の美しさも。一方で、物語は、きょうだいとの衝突、アイデンティティといった事柄、さらに戦争の傷、死という事柄にも触れていく。成長の過程では暗いことにも直面するものなのだから。パステルカラーを多用した、シンプルで絵本のようなアニメーションは、曖昧で美化された記憶をたどっていくのにふさわしい。マジカルさとリアルさが美しい形で混じり合った、繊細な作品。
2歳児の好奇の目が見た広い、広い世界
現実とファンタジーの狭間を行く浮遊感と、人生の一側面を的確にとらえたテーマ性。美しい映像も相まって、そこにはジブリ作品にも似た豊潤な味わいがある。
子ども目線の世界の広さを核にして、自然と人間、地勢や歴史に目配せ。日本に置かれた異邦人の目線を必要以上に強調せず、そこに生きる人間の記憶としてとらえている自然な眼差しがいい。大戦の記憶が残る昭和という時代背景も効いた。
“与えられて奪われるなら、覚えておくしかない”という、主人公が達する境地。それが強く刻まれるのは、目に映る者ものすべてを吸収するような彼女のグリーンの瞳のインパクトゆえか。いろいろな意味で、鋭い。
アニメだからこその表現で、誰もが子供時代を思い出す眩い傑作
生まれた瞬間の記憶がっているなら、こんな視界だったかも。主人公アメリの外の世界の捉え方、その変化を表現しながら、エメラルドグリーンやパステルピンクといった非現実の色使いで何かを発見する喜びがスパーク。目の色の違いでキャラを表現したり、実写では不可能な「感覚」を映像化した点で、アニメの無限の可能性を示した。
1960年代の日本を、作り手たちは丁寧なリサーチで誠実に再現しているので、むしろ日本人こそノスタルジックに浸るのでは? 「思い出はずっと残る。覚えているしかない」とのセリフが心に響く。
あちこちに戦争の記憶が潜み、3歳直前のアメリも生と死の意味を学ぶ。時を超え現在の世界情勢と重なるのも怖い。
色彩が物語を語る
色彩が語る。配色が語る。映像は、主人公アメリが生まれたばかりの状態から3歳になるまで、彼女にとって世界がどのように見えていたのかを映し出すので、そこにあるものに輪郭線はなく、色彩はすべて明るく輝いている。現実にあるものと、彼女の想像力が生み出すものが、境界線なく混じり合う。彼女の気持ちで世界の色が変わる。最初は自分を「神」だと思っていたアメリが、自分は「ヒト」だと気づき、そして「その方がいい」と感じるようになるまでが描かれる。
舞台は、1960年代の神戸の伝統的な日本家屋。ガラス窓をつたう雨の水滴、障子越しに差し込む柔らかな光、台所の鍋から立ちのぼる湯気が、静かに世界を包み込む。


























